仙台地方裁判所 昭和25年(行)36号 判決
原告 飯淵和三郎
被告 宮城県知事
一、主 文
被告が宮城県柴田郡船岡町大字船岡字下小路九番ノ一宅地(現況畑)について、昭和二十四年七月十日附買収令書を原告に交付してなした買収処分を取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は之を二分し、その一を原告の負担としその他を被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一項と同旨及び被告が宮城県柴田郡船岡町大字船岡字町ノ口五番ノ二宅地二百三十一坪四合三勺について、昭和二十四年七月十日附買収令書を原告に交付してなした買収処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、宮城県柴田郡船岡町大字船岡字下小路九番ノ一宅地(現況畑)及び同町大字船岡字町ノ口五番ノ二宅地はいずれも古くから原告の所有であつて、前者は訴外高野軍治及び横山寅治に、後者は同佐藤吉三郎にそれぞれ賃貸してきたものであるが、訴外船岡町農地委員会は、右高野軍治及び佐藤吉三郎の申請に基いて昭和二十四年六月二日前記土地をいずれも自作農創設特別措置法第十五条第一項に定める宅地であるとして同法条によりその買収計画を定め、同年七月二日宮城県農地委員会はその承認をなし、次いで被告は右買収計画に基いて前記日附の買収令書(但し同書面には字下小路九番ノ一については土地台帳面、現況ともに宅地、面積百三十五坪と記載されている。)を昭和二十五年十二月八日原告に交付して右両地の買収処分をなした。しかし右のうち字下小路九番ノ一宅地は現況畑であつて、前記高野軍治及び横山寅治が耕作しているから、これを宅地としてなした右買収処分は違法であり、仮りに右処分が同宅地に隣接して原告が高野軍治及び横山寅治の両名に賃貸している同番ノ二宅地の一部(高野に賃貸している部分)に対するものであるとしても、同番ノ二、及び字町ノ口五番ノ二はいづれも既に船岡町の都市計画事業としての区画整理が行われた地域内にあり、その位置は旧海軍火薬廠正門に通ずる船岡町の大通りに面するところで、附近には店舗が多く、劇場、工場等もあり、なお工場は更に拡張されようとしている状況であつて、既に明かに市街地であり、農家の宅地としては不適当であるばかりでなく、これらの宅地は前記買収申請人等が今次の農地改革によつて売渡しを受けた農地とは相当の距離を隔てゝいて、到底右農地と共に利用出来るものではない。従つて被告がなした本件買収処分は違法であるから、その取消を求めるため本訴に及んだと述べた(立証省略)。
被告は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告の主張事実中字下小路九番ノ一宅地は訴外高野軍治宅のあるところで原告のいう同番の二に当り、同番の二は現況畑で原告のいう同番の一に当ると争う外冒頭から被告が原告主張の買収令書を交付した迄の事実並びにこれらの土地が既に船岡町の都市計画事業としての区画整理が行われた地域内にあることはいづれもこれを認めるが、爾余の原告主張事実は争う。被告が字下小路九番ノ一として買収したのは高野軍治宅がある宅地であつて、船岡町農地委員会が高野軍治の買収申請に基いて買収計画を定め、宮城県農地委員会がその承認を与えたのも右宅地である。而して右買収申請人等はいづれも専業農家で且今次の農地改革によつて農地の売渡を受けた者であるが、本件宅地はその位置、環境についても別段買収を不適当とすべき点はなく、又右両名は該宅地内にそれぞれ居宅の外作業場、畜舎、物置等の農業施設を所有して右宅地を直接その農業経営に利用してをり、それぞれの売渡を受けた農地の経営上必要な宅地であるから本件買収処分は違法ではないと述べた(立証省略)。
三、理 由
船岡町大字船岡字下小路九番ノ一宅地(現況畑)の買収処分について、
被告が船岡町農地委員会の定めた自作農創設特別措置法第十五条による買収計画に基いて、原告主張の買収令書を原告に交付したことは当事者間に争がない。而して成立に争がない甲第五号証の記載と証人気仙竹三郎、飯淵惣喜寿、笠原己之三、中畑弘、高野軍治の各証言及び原告本人の尋問の結果並びに検証の結果を綜合すると、字下小路九番ノ一は旧海軍火薬廠に通ずる道路に面した畑地であつて、高野軍治が宅地として使用している部分ではなく、その部分は同番ノ二であるが、同人はその居宅と作業場、畜舎等のある宅地部分の正確な地番を知らないまゝその部分の買収申請をなしたところ、船岡町農地委員会はこれを相当と認めながら、同宅地を同番ノ一と誤認し、同番ノ一宅地中百三十五坪として買収計画を定め、被告も亦同様の誤認に基いて前記の買収処分をしたことを認めることが出来、右認定を左右するに足る証拠はない。しかし買収処分は買収すべき土地を記載した買収令書の交付によつてこれをなすのであるから、如何なる土地についてなされた処分であるかはその記載によつて決すべきで、その記載によれば買収土地は宅地とあるけれども地番の訂正その他何等かの措置を講じない限り、其の儘では字下小路九番ノ二を指すものとは解し得ない違法があるし同番ノ一の買収処分であるとすれば前記法条所定の条件を具備しない土地としてその買収処分は違法であるといわなければならない。
同町大字船岡字町ノ口五番ノ二宅地の買収処分について、
被告が原告の主張する経過で右宅地の買収処分をしたこと及び右宅地が既に船岡町の都市計画事業としての土地区画整理がなされた地域内にあることは、当事者間に争がない。而して成立に争がない甲第八号証、証人気仙竹三郎、飯淵惣喜寿、笠原己之三、中畑弘、佐藤吉三郎の各証言及び原告本人の尋問の結果(但し下の認定に反する部分を除く、その部分は信用出来ない。)並びに検証の結果を綜合すると、買収申請人たる佐藤吉三郎は今次の農地改革によつて田三反四畝十二歩、畑三反一畝五歩の売渡を受けた者でこれを含めて田約四反九畝歩、畑約三反九畝歩を耕作する専業農家であること、右宅地は吉三郎が昭和三年頃から原告から宅地として賃借してきた、ほゞ長方形の土地で、居宅、風呂場、便所の外作業場、物置等がほゞその四辺に沿うて内側に向いて立並んでをり内部の空地はその小部分が畑となつているけれども、他は右各建物間の通路として、又は稲こきなどをする場所として使用されていること、同人が売渡を受けた農地は近い所で約五町、遠い所で約十町あり、右宅地からみて東の方が主であるが西の方にもあること、同宅地の位置は船岡町の市街地のはづれで農村地帯と接続する位置にあり、区画整理の結果船岡町より角田町方面に通ずる道路と、三名部落に通ずる道路が交叉するところとなつたけれども、本件買収手続がなされた当時及びその後においても附近になお田畑が多く、昭和十三年頃附近に旧海軍火薬廠が設置され、次いで間もなく区画整理が開始されてからは次第に住宅、店舗が建ちはじめ漸く住宅地帯に移行しようとする相を呈してきたとは云え、その変化は緩漫であること、原告は将来も従来通り引続き右宅地を賃貸する意思であることをそれぞれ認めるに足り、右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば、佐藤吉三郎はその耕地の大部分を今次農地改革により、売渡を受け之によつて初めて自作農たるの地位をえたものであるが本件宅地は同人が自作農として右売渡を受けた農地を経営する上に必要な宅地であると認めるに足り、その位置、環境等の点においても、買収を不適当とすべきものではなく、その他自作農創設特別措置法第十五条第二項に定める買収除外事由に該る事情を認めるに足る証拠はない。原告は右宅地が佐藤吉三郎が売渡を受けた農地と相当の距離にあることを以て、本件買収処分を違法と主張するが、同条第一項第二号の宅地買収規定の趣旨は同法によつて解放農地の自作農となる者のために、その者が右農地の経営上必要とする宅地の確保を図ろうとするものであるから、解放農地に接続若しくは近接していなければならないものではない、と解すべきである。
以上の通りで原告の本訴請求中船岡町大字船岡字下小路九番ノ一の買収処分の取消を求める部分は理由があるからこれを認容し、他は理由がないから棄却する。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文を各適用した上主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 飯沢源助 山下顕次)